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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)1063号 決定

抗告人

米澤一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、「本件不動産(八王子市小宮町一一八八番の三宅地254.54平方米)につき、鑑定評価書による評価額は、登記簿に基づく面積254.54平方米で算定評価しているが、現況面積は約204.60平方米で約49.86平方米の不足を生じている。従つて一平方米当りの評価額が四万〇八〇〇円と記載されている関係上不足面積につき減額されるべきである。よつて再鑑定のうえ再び競売に付されるのが正当である。なお現況実測図は至急測量のうえ追つて提出する。」というのである。

そこで検討すると、抗告人は右抗告理由において至急提出するとのべている現況実測図をいまだに提出せず、本件記録を調査しても本件不動産の面積が抗告人主張のとおりであつて公簿面積より不足しているとの事実は、これを認めるに足る資料が何ら存しない。のみならず、およそ競売期日の公告に競売にかかる土地の公簿面積を記載するのは、競売目的物件を特定表示するためであり、したがつて競売手続上予め実測をしてその面積を記載すべき如きことは法律上何ら要求されておらず、それ故競売期日の公告に記載の公簿面積は、それが実面積に合致するものであることを表示するものではなく、況んや同公告はそこに記載の土地の面積が実際に存在することを保証するものでもなければ、また同公告に基づく競売の実施が民法にいわゆる数量を指示してなす売買に準ずる性質を有するものでもない。成程競売手続において競売裁判所から目的物件たる土地の評価を命ぜられた鑑定人が、通常その鑑定をするにあたり先ず一平方米当りの単価を評定し、それに面積を乗じて積算の結果鑑定の結論を出すという方式をとることが一般的であり、本件においても鑑定人がそのような方法をとつていることが記録上認められるけれども、そうであるからといつて右鑑定人が採用した土地面積が実面積であることを、競売手続上競売機関が保証しているわけのものでないことは、前記説明したとおりである。この場合鑑定人は、一応土地の面積をきめるにあたり調査に際し自己の見解にしたがつて各種の資料を参照するが、公簿の記載はその際の有力な客観的資料の一つであるから、これを資料として採用すること自体は、原則的に是認されるべきである。ただ例外的に公簿の記載が実際と著しく懸隔し、それに基づいた鑑定をしたため、鑑定の結果が鑑定人に許容される価値的判断の限界を著しく逸脱し、しかもその重大な誤まりのある鑑定に基づいた最低競売価額が定められた場合には、そのような最低競売価額はこれを競売期日の公告に記載しても、それは正当な手続による適法な最低競売価額を定めなかつたのと実質において同一に帰着し、競売手続の違法を来たす結果となるのである。本件においては、他の資料として昭和五一年度固定資産課税証明書が記録中に存し、同資料によれば本件不動産の昭和五一年度の固定資産評価額は三五三万三五六〇円であり、巷間一般にその三倍程度が時価算定の一つの目安とされていることに鑑み、本件における鑑定人の鑑定結果は、むしろその判断の相当性をうかがうことができるといわなければならない。

その他記録を精査しても、原決定を取消すべき違法な点はみあたらない。

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とし、主文のとおり決定する。

(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

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